BsBsこうしょう

これは考えたことではなく思ったことです。

5月聞いた音楽

kaitoさんが良いと思った曲をブログにして共有しているのを見て、自分もやってみたいなと思ったので月次で集計してやることにした。

blog.uta8a.net

仕事中はずっと音楽を流しており、新しい音楽に触れる機会も増えたので、新しく触れたコンテンツの一覧を毎月整理することは意義のあることだろう。これまでは記憶頼みの雑な運用をしていたので、忘れてしまうことが多かった。

とりあえず完全に新しく聞いた/見たものに絞ることにする。とはいえ被りは出ちゃうと思うけど…

ああああの作った曲まとめ

open.spotify.com

ああああは、日本人の作曲家。主に国内外の音楽ゲームに楽曲を提供しているほか、自身も音楽ゲームプレイヤー(ストリーマー)として活動している。

作曲者本人によるまとめなのだが、あくまでSpotifyに入っている曲しかリストにないので、関わった曲が全て網羅されているわけではない。例えば、『∀』『Recollect Lines』『towards the light, to the light.』などは含まれていない。

だが、傾向を知るためにはそれでも十分な量があり、興味深く聞くことができた。

最初のアルバム『⭐︎×trip.』では荒削りというか、オーケストレーションが全体的にミニマルで未熟な印象を受けるのだが、それが2つ目、3つ目のアルバムになるにつれて徐々に洗練されていく様子を観察することができる。

曲を作る中で自分の作りたい音楽、すなわち作風を確立していくさまを見られるのは、それなりの曲数があり時系列順でまとまっているからである。音楽家の末席である我が身としては「最初の未熟な状態からここまですごくなれるんだ!」と、とても勇気づけられるプレイリストだった。

ああああを特徴づけているのはチップチューンのノスタルジーなメロディだが、この成長過程を踏まえた上で考察するとまた違った意味が見えてくる。つまり、チップチューンは制限されているが故にアウトプットの敷居が低い、という観点である。

チップチューン、特によく取り沙汰されるファミコンミュージックには特有の表現技法*1が存在するが、それらを考慮した上でもなお、他のもっとリッチな音源よりもはるかにいい音を作ることが平易である。平易であるし、チップチューンにおけるいい音のイメージは通常の音源よりも単調であるため、手軽に高い演奏効果を得ることができる。

つまり、コスパがいいのだ。そのため、作曲家を志す者は「まずチップチューンという制限された音楽に触れて、自らの音楽センスを磨きながら手軽にそれなりに有効なアウトプットを出す」というムーブが可能になる。もっと複雑で絢爛な力作は、そうやって力をつけてファンを獲得してからでもよい。

そういったフローがあるならば、インターネットの音楽でチップチューンがそれなりに大きな枠を占めているのは非常に納得できる。素人上がりのインターネットの作曲家にとって、チップチューンは簡単に思い通りの音が出せるエントリーモデルなのだ。まあ、この話がチップチューンの大家の耳に入るとすごい怒っちゃうと思うけど。。

閑話休題、ああああの作風の話に戻る。個人的に印象に残ったのは月あかり研究会名義の『宝石の降る夜に』。ああああには曲やアルバムにストーリー性を持たせたがる傾向が強いが、朗読調になっているこのアルバムはその面目躍如だった。直前にアメリカ民謡研究会を聞いていたのも大きいかもしれないが。

open.spotify.com

Javad Maroufi

今月の大当たり。

open.spotify.com

Javad Maroufiはイラン人のピアニスト・作曲家(故人)。

特にこれといったおすすめはないんですが、どれでもいいので1曲聞くと一発で「あ~~~~~」ってなると思う。この「あ~~~~~」って感覚が好きで色んな国のピアノ独奏曲を聞いている側面が強い。全く同じピアノという楽器を使い、ほとんど同じ西ヨーロッパの作曲家たちの音楽を聞き学んで育ったはずなのに、作曲家として出力される音楽にはなぜか生まれ育った国の色が現れる。イランとはだいたいペルシャで、かの千夜一夜物語の舞台となった土地であるが、Javad Maroufiの音楽を聞くだけでその情景がありありと思い浮かべることができる。

千夜一夜物語といえばディズニー映画『アラジン』だし、アラジン冒頭で流れるオープニングの音楽(アーラービーアンナーーーーーーイトって言うやつ)でイメージが形成されている人も多そう。

open.spotify.com

しかしいざ本物のイラン人の音楽を聞くと、これは所詮養殖のペルシャ音楽だと思えるようになる*2。ディズニーの方はコード感が強すぎる。まあ、実際にアラビア語文化圏のポップスを何曲か聞いてみると確かにコード感のある曲は存在するのだが、Javad Maroufiのような即興的なフレーズの組合せによるアンサンブルの方がよりペルシャ音楽の実態を捉えているのではないか。

Javad Maroufiはおそらくイランを代表する作曲家のひとりだと思うのだが、当然日本語のWikipedia記事はなく英語も非常にあっさりとした記事しかない。そこでもしやと思ってアラビア語 *3Wikipediaを当たってみると、結構詳細な(日本語での日本人作曲家の記事と同程度の文量の)記事が出てきた。この人の先生の情報まで出てきたし、おそらくイラン人の作曲家のカテゴリまである。いやはや、まだまだ楽しませてくれそうだ!

「日本語と英語でしか情報収集できないのは二流」と常々思っているが、まさにその実例だった。

ちなみに本題とはやや逸れるが、上で出した「あ~~~~~」という感覚を手軽に味わいたいなら、日本音楽とラテンアメリカ(中南米)音楽がおすすめだ。

日本音楽については母国語のため「日本の作曲家」などで調べればいくらでも出てくるので省略する。ここでは(業界では散々投げられまくってるやつだけど)無難に徳山美奈子の『ムジカ・ナラ』を投げておこう。

youtu.be

ラテンアメリカ音楽については、日本語で情報をまとめている狂気的なWebサイトが存在する。*4

pianolatinoamerica.org

一覧形式なので代表曲を探すのは難しいが、雰囲気を知るだけならテキトーに聞くだけでも十分だ。このあたりから試しに1曲選んで聞いてみるといいだろう。自分はやっぱりZequinha de Abreuの『Tico-Tico no Fubá』(太鼓の達人の『千鼓千鼓』でおなじみ)なのだが、あれ代表曲の中では割と傍流っぽいんだよなぁ。

youtu.be

聞き比べてみるとイランはイランだなぁってなるし、日本は日本だなぁってなるし、ブラジルはうおっブラジルってなる。こういうところが本当に面白いと思う。

This Is 電音部

電音部は、バンダイナムコエンターテインメントが推進する音楽を中心にしたメディアミックス企画。

denonbu.jp

それなりに人気があって曲数を出しているアーティストなら、Spotifyが勝手に40~60曲ほどおすすめしてくれる便利な機能がある*5。電音部は全曲マラソンしようとすると結構シャレにならない曲数あったはずなので、こういうのがあるのは助かる。

open.spotify.com

電音部はその名の通り音楽の中でも電子音楽、特にクラブミュージック系にフィーチャーしているのが大きな特徴だ。クラブ系の中でもハードスタイルとされている類よりは明確にテンポが速く*6、有り体に言ってしまえば音ゲー受けしやすい曲になっている。

音ゲー受けしやすいので、実際バンダイナムコ音楽ゲームである太鼓の達人ではものすごい勢いで楽曲が収録されていて、多分コンテンツ単位だとTHE IDOLM@STER(いわゆる765プロ)の次に多く収録されていると思う。他社への輸出も割とやる気がありそうで「展開してくれればな~」とは思っているが、なかなか厳しいようだ。なおいちばん相性が良さそうだったWACCAは終わってしまわれた…

ただ、連続で聞くには結構な慣れが必要そうであるというのが正直な感想。低音域のベロシティが急激に変わる場面が何度も繰り返されるため*7、長時間聞いているとすぐ疲れてしまう。おそらく専門用語で言うところのアタック感だと思うが、それが強すぎるのがあまり良くないと思う。

曲単位だと、結局これ聞く前から好きだったTAKU INOUEの『Mani Mani』に勝てるものはなかった。Spotify(というか歌モノ出してる全ての権利者)、作曲家・編曲家の名前を表示しろ。

open.spotify.com

『Mani Mani』とデレマスの『Radio Happy』は個人的にTAKU INOUEの代表曲。

Lyapunov: 12 Etudes d’exécution transcendante

Sergei Lyapunovはロシア人の作曲家・ピアニスト(故人)。

open.spotify.com

Lyapunovは前から注目していていつかまとめて聞いてみようと思っていたのだが、時間ができたのでまとめて聞いた。

表題のエチュード以外にも色々ざっくばらんに聞いたが、代表的なのはこのエチュードなのでここではそれを挙げた。

transcendante(英: transcendental)は日本語で超絶技巧と訳されるが、これを最初に用いたのはおそらく哲学者のカントだと思われる……と思ったが、どうやら古フランス語ではそれなりに普遍的に使われていた語彙のようだ*8

www.etymonline.com

この単語が音楽においてセンセーショナルな意味を持つようになったのは、リストによる『超絶技巧練習曲』*9からである。ショパンエチュードをも上回る超高難度楽曲集として、またリスト本人のピアニストとしての力量もあり、transcendantalという単語は音楽家の中で特別な意味を帯びるようになったはずだ。

このリストの超絶技巧練習曲にあやかり、エチュードのタイトルにtranscendantalという題を冠したフォロワーはいくつかあり、知っている限りではアルカン、ソラブジ、そしてこのLyapunovによるものがある。

まあ、Lyapunovに注目していたのはそれが理由ではないのだが。Lyapunovはロシア人の作曲家だが、曲調にロシアらしくない*10かき消えてしまいそうなほど繊細な旋律やアルペジオを感じ、それが好きなフランス音楽、特にフォーレに通じるものがあると思っていて、以前から聞いてみたかった。

ただ、結論から言えばそのような魅力的な旋律はLyapunovの中では少数派であるようだった。昔刺さった曲の名前を思い出せないが、もしかしたらピアノソナタのどれかだったのかもしれない。Lyapunovは確かにロシアらしくないが、その中には確かに体力偏重のロシアニズムは多く存在した。

ただ、その中に場違いな細やかさを持つ曲もいくつかあり、ザ・体力!みたいな曲群の中に混ざっているとひときわ輝いて見えてくるのも確かだ。そういったグラデーションがLyapunovの魅力を形作っているのかもしれない。

open.spotify.com

表題のエチュードの中では、最初の曲『Berceuse in F-Sharp Major』が非常に強い印象を残す。

open.spotify.com

ただ、聞いていて魅力的に感じるかと実際に弾いてみたいかは全くの別問題で、Lyapunovの曲をぜひ弾いてみたいとはならない。1曲が重すぎるんよ、この人の曲は。

This Is Shuman

ロベルト・シューマンは、ドイツ人の作曲家(故人)。小学校の音楽で教わるほどの有名人だが、実際のところ広く膾炙した楽曲というのはほとんどない気がしている。トロイメライくらい?

知人にシューマン好きの人がいて、聞いてみるか〜となったのでThis Is Shumanをまとめて聞いてみることにした。

ドイツ人の作曲家といえばやはりベートーヴェンは外せないだろう。ただ、ドイツ(というかウィーンの音楽)にはあまり明るくなく、それ以外に自信を持ってドイツ人!と言える作曲家は自分では思いつかない。無知…

シューマンはピアノ独奏曲、室内楽、オーケストラなど様々な媒体で多くの作品を発表したが、一通り聞いた限りでは室内楽においてその落ち着いた端正さがよく現れているように感じた。芸術家としては正道というか、かなり優等生寄りの作曲家のように見える。特に弦楽器ソロの表現力について目を見張るものがあると感じたが、これは室内楽得意とする人はみんなそうだと思うし判断材料としては微妙。

逆に、ピアノ独奏曲は全体的に陰気だ。まあそもそもトロイメライからして「あれを含むような曲集に子供の情景と名付けるのか…」という感じの曲調ではあるのだけれども。陰気な音楽も乙なものだが、もう少し華やかさがあった方が個人的な好みにはよく合う。

open.spotify.com

全体を通して「複雑な和声のハーモニー」は感じられなかったが、聞いた音楽が悪かったのかもしれない。

ここまで書いたところで、Wikipediaの記事を読んで答え合わせを行った。

ja.wikipedia.org

「声楽曲は器楽曲より程度が低い。―私は声楽曲を偉大な芸術とは認めがたい」

わかり〜〜まあ、さすがにここまで過激な主張は持ってないけど。

弟子にブラームスがいるのはかなり納得。保守的な曲作りを行うシューマンの音楽に、ブラームスはとても影響を受けたのではないだろうか。

あとは室内楽を得意としていたのも当たったっぽい。こっちはまぐれだけど。

おわりに(雑記)

文量多いわ。1ヶ月に聞いたものまとめるのはかなり大変ということが分かったので、今後は週記、あるいは隔週記事としてやるのが良さそう。実際、この記事も5月の1週目から2週目はじめにかけて聞いた音楽の情報が抜け落ちているように感じる。聞く音楽が多様で量が多いのはいいことなので、あとはアウトプットをしっかりやるのが大事。後から振り返るとき「この音楽どこだっけ」と何回もなってしまったので、Spotifyのいいねもこまめにつける。

アニメや音楽は同時並行で色々進める算段がついたので順調に消化できるようになったが、ゲームは集中してやらないといけないので厳しい。ただ動画だけ見て満足する日々にはうんざりしているので、試しに『vivid/stasis』というアメリカの音楽ゲームをインストールしてみた。

store.steampowered.com

そこまで難しくないというような前評判を聞いてプレイしたが、全くついていけなくて泣いた。DJMAXEZ2ONを当然のようにシバく人たち向けに作られており、それぐらいの実力がないと楽しめない感じだ。ゲームまでにも嫌われているのを感じる。

サイトの見た目から職場で見るのはためらわれるが、本当はGroundbreakinGを一通り聞くやつをやりたい。契約の関係か知らんけどBMSの曲はSpotifyに全然転がってなくて悲しみを背負っています。

gdbg.tv

*1:多くはよりリッチな音源における機能のサブセットである

*2:一流のプロが作った音楽なので、巧妙に似せてあるとはいえ…

*3:アラビア語ってエジプト圏のものと標準的なものがあるんですね

*4:ブラジルについては、もともと日本と関わりある国なだけあって情報がそれなりにある

*5:便利な機能だが、内容が不定期に入れ替わることだけが玉に瑕

*6:このあたり知識がなくてビシッと言い表せる語彙がない…

*7:いわゆるキック

*8:と思ったけど、カントが生きた時代を考えるとカントが広めた可能性は依然としてありますね

*9:本題とは逸れるが、transcendantalを超絶技巧と訳した人間天才だろ

*10:バラキレフラフマニノフでロシアのイメージづけをするなという話ではある